成長抑制療法?
ここのところ、あまりのICUの忙しさ為、それにniftyのメンテナンスが重なってしまい、更新が滞ってしまいました。最近は受け持ちの患者さんの数が多くて忙しく、家に帰っても眠ることしかできません。交代してやって来た新しいインターンがBlack Cloudなのでしょうか。
それはそうとGrowth Attenuation Therapyという医療用語をご存知でしょうか。これはArch Pediatr Adolesc Med. 2006;160:1013-1017. に掲載されたAttenuating Growth in Children With Profound Developmental Disabilityという記事に出てきた用語です。成長抑制療法と仮に訳しておきます。
これは6歳の重度の障害を負って生まれてきた女の子に対して行われた治療です。この子は妊娠中の経過や分娩には問題なく生まれてきました。しかし、生後1ヶ月ほどして発達障害を示す様々な症状が見られる様になってきました。小児発達科や遺伝科、小児神経科の徹底的な検査にも関わらず原因ははっきりしませんでした。6歳の時点で1人座りもできず、言葉もしゃべれず、胃瘻によって経管栄養を受けている状態でした。ただ話しかけられたり愛情表現を示されたりすると、笑ったり何らかの発声をしたりしたそうで、両親からは"Pillow Angel"(これから起こることを考えると皮肉な愛称です)と呼ばれていました。両親はずっと自宅で介助していたそうです。
しかしながら彼女が思春期に入る兆候を見せると両親は心配になってきました。このままどんどん成長して身長も体重も増えていくと自宅で介助を続けることができないのではないか。他人の手に介助を委ねることはなんとしてでも避けたい。それに、生理が始まるとどのようにしたらいいのだろう。
そこで相談を受けた内分泌科が編み出したのがGrowth Attenuation Therapyです。これは高容量のエストロゲン(いわゆる女性ホルモンです。)投与によって骨端線を閉じて成長を抑制し、また子宮摘出術を行うことによって高容量エストロゲン療法に伴う癌のリスク増加などの副作用を避け、また生理に伴う問題も解決しようというものです。
そしてこの治療は合併症を伴うことなく行われ、期待された通りの効果を生み出し、彼女は現在も両親の"Pillow Angel"でいます。
最初の「これはひどい!」リアクションを通り越した後によく考えてみると、この治療はひどく難しい倫理的な問題を孕んでいることが分かります。
重度障害児は自己決定する能力を実質的に欠いているが、どこまで両親によって決定され得るのか。
身長を伸ばす治療(成長ホルモンの投与)は倫理的な問題なく行われているのに、その反対の治療(身長を伸びないようにする)の倫理的な意義は。
現実的に彼女が妊娠を望む可能性がゼロだからといって、子宮摘出術を行うことの是非は。(歴史上の悲劇から、障害者に対する不妊術に対しては非常に強い生理的な嫌悪感が根強くあります。)医療という単純な面から見ると手術に伴うリスクよりも、手術によるベネフィットが恐らく大きいでしょう。
例えば、彼女が手足を使う可能性がゼロだからといって切除してしまってもいいのか。
彼女がこのまま成長したならば、結局自宅介助を続けることが叶わず、何らかの施設に入り介助を受けることになるでしょう。(自宅で何とかしろ、という声が聞こえてきそうですが、自宅介助は気合いとかで何とかなるような生やさしいものではありません。)それが彼女の家庭にもたらす影響は。
医学の進歩によって医師にできることは増えてきました。それに比例して倫理的な問題も増えるばかりです。倫理的な問題は、倫理学の専門家が話し合って結論を出すだけではなく、それが皆の生理的な感覚に一致していなければならないのですが、そうした感覚というのは一朝一夕に変わるものではないからです。脳死問題を考えてみても心臓が動いている人間が「死」んでいるとは、受け入れがたい人は多いでしょう。もう、医療の面だけから考えた単純なリスク・ベネフィットという話では無くなっています。
今回も難しい問題を孕んでいますが、どのように議論が発展していくか生暖かい目で見守りたいと思います。
今日の自己管理
規則正しい生活 × 運動 ○1
英語 ○9 試験勉強 ×
一時中断した分は無かったことにして、今日からまた再開です。
今日の一人言
今日は雪が降っていてとても寒い一日でした。年明けは暖かかったのに、変な天気です。エル・ニーニョのためらしいです。
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