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2007年4月 3日 (火)

医師の給料

さあ 立ち上がろうー「美しい日本」にふさわしい外科医とは
http://blog.m3.com/Fight/20070402/1
というブログ
そして
元気に明るく生きて行ける社会のために、医者のホンネを綴りたい
http://blog.m3.com/DrTakechan/20070403/2
で興味深い議論を読んだので、医師の適正給料について考えてみようと思います。

どうやら、議論の発端はそのブログでAtsullow先生が

「(略)世界一の日本の医学をリードする人たちの給料とは到底考えられません。(中略)これに対して大手都市銀行の40歳は1200万円もらってますし、テレビ局は27歳のADですら年収1000万円超えます (中略) 大学教授と 「あるある」みたいな番組を垂れ流している27歳のAD の価値が同じとは、到底考えられません。」

と書いたところ、「通りすがり」さんが

「まず、大学教授が偉大なのは、医学部に限らず法学部でも工学部でも同じだと思いますが、収入に関しては弁護士>法学部教授ですし、弁理士>工学部教授というのも普通です。したがって、ここで特段主張すべき内容ではないでしょう。(中略) それから、医師になるような方の中で、仮に医学部に進学せずにADや記者を目指して、実際に採用される方ってどれほどいると思います?私は1割を切る、もっと言えば、数パーセントだと思いますよ。努力して勉強し医学部に合格することと、勉強はもちろんのこと、社会性や人間性といった努力だけでは如何ともしがたいことを評価される就職活動を突破してADになることと、どちらが難しいかはさておき、市場価値という意味では普通の医師よりはADの方が高いと思いますよ。そのADと医師の収入を比較し、医師の収入の低さを主張することの意味がわかりません。」

とコメント欄にカキコ。それに対し、Atsullow先生が

「まず「医療の市場価値」についてですが、医療に市場原理は現在導入されておりませんので、市場価値は測定できません。そこが問題なのです。
私の主張は、市場原理を導入し、能力のある医師の給料を増やせということです。(中略)それから、医学部の教授と他学部の教授の価値は、仰るような単純な違いではないと思っています。特に外科は患者を呼ぶ能力、手術成績や研究業績が病院収入に直結します。(中略)それから、勉強不足で大変申し訳なく存じますが、ADの市場価値が1200万円だとすると、やはり外科医一般や産婦人科医一般の「市場価値」はおそらくその5倍以上だと考えます。(中略)それから、医師レベルでは、実際にADに採用される方は1割を切る、というお話ですが、(中略)そして、それは努力して医学部に入った人たちに不可能なキャリアとも思えませんが・・・。」

と反論。今は「通りすがり」さんの反論待ち、という状況のようです。細かいところまで全部読んでいないので、勘違いしていたらすいません。気になる方は上記のリンクをぽちっとな、と押してください。

さて、Atsullow先生は「医療に市場原理は現在導入されておりません」とおっしゃっていますが、医療は特殊な財であるので市場は失敗する、というところから話が始まるとややこしくなりそうな予感がするので、医師というプレーヤーにだけ焦点をしぼって考えてみたいと思います。

まずは昔話から。

元々、医師の時間選好はやや特殊でした。若手時代(研修医、大学院生時代)は非常に安い給料で働き、各病院を回って研鑽を積み、中堅どころになるとだんだん給料が上昇し、そして最後に教授、または有名病院などの部長といった名誉ある職につくか、あるいは開業して高い収入を得るか、というのが医師として成功した人生のあり方でした。かつては、実際にこうした人生の絵図が描けたし、それにある程度実現できたのです。そしてこの仕組みを支えていたのが「医局制」でした。医師としての賃金の移り変わりはピークが極端に後ろ側に偏っており、、終身雇用型サラリーマンというよりも、天下り後に収入が跳ね上がる官僚に近いものでした。若い頃の安い賃金での労働はいわば「貯金」で、最後にそれを取り返す、という仕組みは、退出障壁をつくり、医師を「医局」という組織に忠誠を誓わせ、囲い込む効果がありました。

この仕組みはなかなかうまく働いていました。医局は人材派遣会社として機能し、へき地にある病院でも(限界生産性よりも)安い給料で医師を確保することができました。医師も、医局に忠誠を誓うことで医局影響下の病院をローテートし、医師としての訓練を積むことができました。最後には医局のバックアップの元で開業することも可能でした。医局は医師を多数所属させることで、周囲病院に対する影響力を行使しできましたし、また大学病院で研修医や大学院生といった安い労働力を確保することができたのです。

こうした仕組みの元で、それでも生涯賃金では大学同期の銀行員よりやや少ない程度で収まっていたようです。仕事は激務でしたが、医師という仕事に対するやりがい、また周囲から受ける尊敬の念が医師を支えていました。このように、賃金以外の仕事の特性に応じて、賃金が調整されることを補償賃金仮説と呼びます。

ここまでが昔話です。

皆さんがご存知のように、医局講座制はマスコミの集中砲火を浴び続け、また臨床研修義務化を始めとするあの手この手で、今や解体されかかっています。(60年代にあれだけ火炎瓶を投げても何も変わらなかったのに、厚労省もたいしたものです。)

医師としては今まで激務に耐えて医局に「貯金」してきたのに、肝心の医局そのものが無くなりかかっている。医局はあっても、かつて医師に対して見せていたような未来図を見せる力はもう無くなっている。しかし、かといって今さら医局を急に辞めるわけにもいかない。ホールドアップ問題として知られるこの問題は大きなモチベーションの喪失、インセンティブの喪失をもたらしました。

先輩医師のこうした悲惨な姿を見た医学生は、医局に入るのをやめ、自分たちの労働に対して適正な(または適正と思われる)給料を払ってくれる病院に就職するようになりました。若い間は丁稚奉公して医局に貯金する、という人生モデルを選ぶものは少数派になりました

医局でもまだ身動きがとれる中堅層は、開業しました。本来であればもう少し長い期間医局に勤めていたかもしれませんが、この情勢の中では開業できるときに開業しよう、判断したのです。

医局が人材派遣機能を失いつつあるために、へき地の病院は医師引き上げという仕打ちにあいました。へき地の病院は自分で医師を確保しなければならなくなったのです。かつては医局の力で薄給で医師を確保できましたが、これからはそうも行かなくなりました。

ここで問題を悪化させたのがマスコミによる医師叩きでした。医師会の政治力も弱まり、情報公開の流れに乗って表に出てくるようになった医療ミスもあって、医師は格好の標的だったのです。(「あるある」の例もそうですが、マスコミは社会的な重要さよりも叩きやすさで標的を選ぶのです。)かつて、救いの手として尊敬された医師像は地に落ち、医療不信は高まりました。医師の職業としての特性はプラス(尊敬、感謝、やりがいなど)からマイナス(周囲からの不信感、ねたみなど)に転じたのです。補償賃金仮説により、その分は医師の給料の上昇として表れました。そして、この医療不信の傾向はメディアリテラシーが低いへき地ほど顕著だったために、医師の給料はへき地でより上昇しました。

ざっと見て、これが現在起こっていることです。こうした中で、医師の適正給料はどのようになるべきか。

まず、議論がスタートしたADの給料が適正かどうか考えてみましょう。(これもかなり特殊な例ですが…)

「通りすがり」さんの主張はADになるのは(医師になるよりも)困難であり、従って市場価値は医師よりも高く、給料も医師より高いべきだ、ということのようです。

興味深い主張ですが、残念ながら、この「通りすがり」さんの主張は、「給料」や「市場価値」に対する理解があまり感じられず、正直本当に社会人かと思ってしまいました。

まず、その職業に就くのが困難なことと、給料や市場価値はあまり関係がありません。給料が高い職業が結果として人気があり、その職業につくのが難しくなることはありますが、その逆は真ではないのです。雑誌「ロッキンオン」の編集者になるのは非常に狭き門ですが、彼らは別に高給取りではありません。

ADという職業は、別段免許が必要なわけでもなく、(資格や免許がいらないという意味で)参入障壁が低い仕事です。誰でも出来る仕事であり、またマスコミという華やかな場にも関わることが出来るので、人気が高くなっているわけです。また、彼らの給料が高いのは、彼ら自身の生産性が高いわけではなくて、郵政省の政策によって数十年以上テレビ地上波への新規参入がなく、在京キー局の寡占状態が続く、歪んだ市場になっているためです。

こうした保護された競争のない環境で程度の低い番組を作り続けるテレビ局の従業員と、WHOに世界一と評価される医療を支える医師を比べるのはあまり意味がないように思いますが…。

さて、翻って医師の給料はどうでしょうか。現在は以前よりもむしろ医師の給料を上昇させる圧力が強まっています。その理由としては、医局の力が弱まり、労働市場が需要ー供給に基づいて機能するようになってきたこと、医師になるには免許が必要であり参入障壁が極めて高いにもかかわらず厚労省の無策により医師不足の解消のめどが立っていないこと、医師としての職業の魅力が薄れ、前述の補償賃金仮説によって給料を上げる圧力になっていること、などが挙げられます。

そして、労働市場が機能するようになってくると、基本的な賃金は限界生産性と均等化すると思われます。平たく言うと、医師一人を余分に雇うことでどれだけ売り上げを増やせるか、それによる、ということです。例えば、産婦人科医師一人を雇うことで売り上げが一億円、利益が三千万円増やせるのだったら、その病院は三千万円払っても産婦人科医を雇うでしょう。

医師一人増やすことで増える売り上げは一億円以上と聞いたことがあるので、恐らく(平均として)千万円から二千万円くらいに落ち着くのではないでしょうか。

やっぱり、僕も経済学部に行って銀行員になれば良かったかな…(ボソッ)。

今日の自己管理
規則正しい生活 × 運動 ×
英語 ○11      試験勉強 ○2

今日の一人言
うさは依然として体調が良くないですが、昨日よりは少しだけいいようです。

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コメント

わが意を得たり!という感じです。大変勉強になりました。TBありがとうございました。

投稿: あつかふぇ | 2007年4月 5日 (木) 07時01分

当事者ながらナルホドと思いました^-^
私自身は少数派?の医局の道を辿っていくつもりですが,辿っているうちに道が無くならない事を願っています^^;

投稿: アルよし | 2007年4月 6日 (金) 05時31分

あつかふぇ先生初めまして。先生のブログはリーダーに登録していつも読ませていただいています。これからも楽しみにしています。
アルよし先生、コメントありがとうございます。僕は今はアメリカにいますが、真剣に今後の身の振り方を考えています。実は日本に帰国して少数派(?)の道も結構考えていたりします。

投稿: tanu | 2007年4月 6日 (金) 08時50分

さくら、満開です。観にいらしてください

投稿: あつかふぇ | 2007年4月 9日 (月) 18時29分

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