« 2007年10月 | トップページ | 2009年2月 »

2009年1月20日 (火)

COPDの管理において、Anticholinergicsは死亡率を上昇させるか?

ここ数ヶ月でこのテーマに関して論文を頻繁に見掛けるし、論文の読み方を練習する上で良い題材になりうるので取り上げてみようと思います。

試しにUpToDateで"role of anticholinergic therapy in COPD"を見てみると、"Conflicting findings have been reported in multiple studies"なんて書いてあります。もともと、Anticholinergic agents (SpirivaとかAtroventという商品名の吸入薬です)は非常に安全だと思われていたのですが、昨年になって(特に心疾患系の)死亡率を上昇を示唆する論文が続けて発表されています。臨床医または患者の立場からするとこれほど困ることもないですね。安全なのか、そうでないのか・・・。

もともとanticholinergicは水溶性ですし、血圧や心拍数に対する影響もほとんど無いので非常に安全だと考えられてきました。ところが、90年代に行われた5年間の月日と6000人近い被験者を費やし、Anticholinergicとplaceboを比較したLung Health Studyが思いがけずAnticholinergic群で心血管系の死亡率の上昇を示したのです。全く予期されていない結果でした。大規模な試験だったのでそうした稀な副作用が検出されたのかもしれません。そこで試験を精査する委員会が組織されたのですが、その結果は「統計学的に有意な結果ではないし、dose effect(投与量の増加に伴って副作用の危険性が上昇すること)も見られない」、要するに「シロ」でした。心血管系死亡率の上昇傾向については、complianceの影響も示唆されています。(Am J Respir Crit Care Med. 2002 Aug 1;166(3):333-9.)

ところが2008年に入ってAntichoinergicの危険性を示唆する論文が相次ぎます。(Ann Intern Med. 2008 Sep 16;149(6):380-90.、Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2008;3(1):163-9) これらの研究はいわゆるobservational study(観察研究)です。こうした研究においては、交絡因子(confounding factor)を適切に取り扱うことが非常に重要になります。ですが、これらの研究においてはいくつかの重要なリスクファクター(喫煙、COPDの重症度など)が調べられていませんでした。

そして、Antichoinergicの危険性を示唆するメタアナラシスが行われます。(JAMA.2008; 300: 1439-1450.)全部で17の試験(参加した被験者は合計15000人近くにも及びます)の結果を総合して、anticholinergicは心血管系死亡率、心筋梗塞、脳梗塞の危険性を高める、という結論を下しています。(ほとんどの研究が「更なる研究を要する」で締めくくるのと比べると、このきっぱりとした断言はある意味すがすがしいです。)

しかしながらこのメタアナラシスにもいくつかの問題点があります。被験者(そして心疾患系の死亡)の大半が前述のLung Health Studyからのものであること。それ以外の試験は多くが小規模で期間も短いことなどです。また、心血管系の死亡が見られなかった試験の内いくつかが含まれていないようです。

そしてその直後に4年間をかけたUPLIFT(The Understanding Potential Long-Term Impacts on Function with Tiotropium)試験の結果が発表されます。(N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1543-54)これは4年間6000人近い被験者を追跡した非常によく計画された比較対照試験です。調べられたanticholinergicはtiotropium。統計解析もきちんとなされています。(このレベルの解析が出来るようになりたいものです。)その結果は「シロ」。むしろtiotroipum群が死亡率が低い傾向さえみられます。

ざっと見てきましたが、印象はいかがでしょうか。5本の論文の内、4本が死亡率の上昇を示唆、2本は観察研究、1本は比較対照研究(ただしその結果は疑問符付き)、1本はメタアナラシスです。残りの一本は死亡率の上昇を否定した比較対照研究。多数決でいくと死亡率が上昇する方に軍配を挙げたくなります。ですが、それぞれの論文を詳しく読んでいくと、研究の質として最も優れているのは死亡率の上昇を否定した比較対照研究だということが分かってきます。メタアナラシスもUPLIFT試験を含めると結果が変わってくるかもしれません。(上述のメタアナラシスの研究者達が、何故数ヶ月待ってUPLIFT試験も解析に含めようとしなかったのかは定かではありません。Dr. Furbergだから?www)

今臨床研究の方法論や統計学を勉強していますが、すればするほど「完璧」な研究などない、ということが分かってきます。論文を読むときも以前は何となく流し読みしていましたが、批判的に読むことで理解を一段と深めることが出来るようになった気がします。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2009年1月11日 (日)

舅姑と同居している日本人既婚女性は冠動脈心疾患の危険性が3倍高い

Living arrangement and coronary heart disease: The JPHC Study. Heart. 2008 Dec 15 PMID: 19066191から。この研究はNew York Timesにも取り上げられました。

嫁姑問題、と聞くとストレスフルなイメージがありますね。でもそれが健康に与える影響はどうなのでしょうか?

ハーバード公衆衛生学教室が40歳から69歳までの心疾患を持っていない日本人90987名(内47594名が女性)を平均11年間、質問票によって追跡調査したところ、合計662例の冠動脈心疾患(いわゆる心臓発作)が起こり、他の危険因子を考慮しても舅姑、夫と同居している女性は夫のみと同居している女性と比べて3倍冠動脈心疾患になる危険性が高かったと言うことです。興味深いことに、舅姑に加え夫、子供と同居している女性、夫と子供と同居している女性、母子家庭の女性も2倍程度冠動脈心疾患になる危険性が高かったということです。

もともと若い日本人女性は冠動脈心疾患になる危険性があまり高くありません。47594名の女性を平均11年間追跡したこの研究でも冠動脈心疾患によって死亡した女性はわずか97名、全ての死因を含めても亡くなったのは2073名です。非常に大雑把に言うと、約10年間程度で死亡率は4%前後、冠動脈心疾患による死亡率は0.2%程度ですから、この年齢層の日本人女性はかなり健康なことが伺われます。そうした低い死亡率が2から3倍高まったとしても、公衆衛生学的には意味があることですし、学問的には興味深いことですが、個々人がそれを気にして何か行動に移す必要は無いと思われます。(この辺りはabsolute risk reductionとrelative risk reductionの違いですね。仮に10倍危険性が高まるとしても元々の危険性が非常に低ければ、その高まった危険性の意義はあまり無い、ということです。)

社会的な要因は英語ではSocioeconomic Status (SES)と呼ばれ、それが疾病に与える影響について多くの研究がなされています。ストレスが心疾患に与える影響も注目を集めています。仕事のストレスが心疾患を増やす、というデータも多いですね。上記の研究のように人間関係のストレスもまた注目を集めています。そういえば、結婚関係がうまくいっていないと心疾患の危険性が高いというデータもありましたね。(Arch Intern Med 2007 Oct 8; 167:1951.)

面白い研究としてはドイツで2006年ワールドカップ開催中には心疾患の発生率が高まった、というものがあります。(N Engl J Med 2008 Jan 31; 358:475.) ドイツはイタリアに準決勝で敗れて3位でしたから、それがショックだったんでしょうか。。。

ストレスを避け続ける人生なんてつまらないですが、(メタボ気味で心疾患の危険性が元々高い人は特に)ストレスもほどほどに、ってことでしょうか。

前向きな気持ちが心疾患の危険性を減らすかもしれない、なんて研究もあるので(Arch Gen Psychiatry 2007 Dec; 64:1393)今年も前向きに頑張っていきましょう!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

冬学期開始

大学院で冬学期が始まりました!
今学期履修するクラスは3つ。

回帰分析を中心に学ぶ統計学のクラス (週2回)
SASという統計ソフトを用いて学ぶデータ解析のクラス (週2回)
臨床研究における問題点、というテーマの臨床研究のクラス (週1回)

です。

今学期の間に

1.Designing Clinical Research: An Epidemiologic Approach (Paperback) by Stephen B Hulley
2.Methods in Observational Epidemiology by Jennifer L. Kelsey
3.The Little SAS Book: A Primer, Third Edition by Lora D. Delwiche
4.SAS and SPSS Program Solutions for use with Applied Linear Statistical Models by William Johnson
5.Applied Linear Statistical Models by Michael Kutner
6.Statistical Analysis of Medical Data Using SAS by Geoff Der

をマスターしようと思っています。SASは日本語ではあまり良い教科書がないですね。。

宿題は多いようです。。。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 1日 (木)

あけましておめでとうございます

旧年中は大変お世話になりました。今年もまたよろしくお願いします。

2008年度は忙しい一年でした。

UCLAでのgeriatric fellowshipが修了し、同じくLos Angelesにある退役軍人病院(VA hospital)にgeriatricsのリサーチフェローという形で残ることになりました。このリサーチフェローは臨床研究が中心になります。フェローに対する教育の一環としてUCLAの大学院に通うことになりました。当初は公衆衛生の学位(Master of Public Health)を目指していたのですが、結局臨床研究のデザインや統計について重点的に学べる臨床研究のコース(Master of Science in Clinical Research)にすすむことになりました。大学院進学のために大学院入試(Graduate Record Examination, GREと呼ばれます。)も受験しました。VA hospitalへの就職やGRE受験などは面白いことも多々あったので、また後日ゆっくりと触れようと思います。

老年病内科専門医試験を受験しました!(結果待ち)

以前からだらだら時間をかけて書いていたReview articleをやっと投稿しました!(結果待ち)

引っ越ししました!(以前の住まいより南に5マイルほど。Gated Communityと呼ばれる入り口に守衛がいるタイプのコンプレックスです。なんとプール付き!)娘達が新しいプレスクールに入学です。

そして何よりも、ついに三人目妊娠です!また女の子(^o^)。2月誕生予定です。

現在は半分大学院生、半分医者として生活しています。やっとブログを再開する余裕も出てきたので、今日を区切りに再開です!
今年もよろしくお願いします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年10月 | トップページ | 2009年2月 »